根岸ステークスと外国人騎手
時は幕末。
慶応2年(1866)、当時の神奈川県横浜市(現在の中区根岸台)に、日本初の常設洋式競馬場が建設されました。
横浜競馬場です。
同競馬場では昭和17年(1942)まで競馬が施行されていたといいます。
今週末、1月29日(月)に東京競馬場で行なわれる根岸ステークスは、その所在地名に由来するレース。
いわば、日本の西洋競馬の発祥地を顕彰する――ということでしょうか。
昭和62年(1987)に創設され、今年で31回目。
じつはJRAのダート重賞では3番目に古い歴史を持つレースなのだそうです。
ところで、慶応2年といえば、ペリー来航からわずか13年。
徳川慶喜が大政奉還する1年前で、日本ではまだサムライが腰に刀を帯びていた時代です。
そんな時代によく競馬場ができたものだ――と驚くほかありません。
そこら辺の詳しい経緯を書いていくと歴史の参考書みたいで堅苦しくなってしまうので、ご興味のある方はこちらをお読みください。
“幕閣小栗忠順に仕える富樫裕三郎には悲願があった。
故郷三春に残してきたりんとの恋、そして本邦初の競馬場の建設であった。
小栗の従者として渡米後、横浜外人居留地に下宿し、小栗の耳目となる。
そんなある日、外人主催の競馬に飛び入り参加した裕三郎は、思いがけず優勝する。
幕末の動乱に巻き込まれていく一青年を通して、日本競馬の曙を活写する幕末秘史!”
(カバー裏表紙のあらすじ紹介文より)
小説ですので、すらすらと楽しんで読むことができます。
歴史の授業で習った「生麦事件」が、じつは競馬・乗馬を楽しむ横浜居留地の外国人たちが遠乗りした結果に起こったものだとか、浅学ながら新しい発見も多くありました。
生麦事件の生々しい描写ひとつとっても、非常に優れた小説です。
この本を読むと、日本の競馬はつくづく外国人の努力に支えられて築かれたのだということがわかります。
そもそもサラブレッドが舶来の血統なのだから、当たり前といえば当たり前ですが。
ジャパンカップでも1981年の創設から3年間、日本馬は外国馬に勝てずにいました。
その辺りの事情は、競馬ゲーム『ウイニングポスト8 2016』でも描かれています。
2017年版はどんな感じになるか、楽しみです。
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ところで、東京競馬場のスタンドなどに座っていると、
「ガイジン騎手が強すぎてつまらない」
といった声をときどき耳にします。
ルメール・デムーロ両騎手がJRAの通年免許を取得してからというもの、中央競馬の様相はガラリと変わりました。
「ルメール・デムーロの馬連だけ買っておけばいい」
なんて声も聞こえるほどです。
こういう声を聞いていると、了見が狭いというか、そもそも我々が熱狂しているのが西洋競馬だということをご存じないのかと疑ってしまいます。
そもそも「ガイジン」という呼び方が排他的で、個人的にあまり好きではありません。
翻って、日本の国技といわれる相撲では、長らく日本人横綱の不在が嘆かれてきました。
このほど稀勢の里が横綱昇進確実とのことで、19年ぶりの日本人横綱誕生が話題となっています。
私は相撲に関してはまったくの門外漢ですが、初優勝でいきなりの横綱昇進は時期尚早ではないかと感じています。
他に日本人横綱がいたならば、これほど早く運ばなかったかもしれません。
実際、連勝記録が伸びてきた頃に白鵬の取り組みを両国国技館で観戦したことがありますが、素人目にも格の違いが明らかなほど強いと思えました。
いかに国技とはいえ、この国際化の時代、日本人/外国人をうんぬんするのは意味を成さないのではないでしょうか。
同じアスリートとして対等にリスペクトし、ときには技を盗むことも競技の発展につながるのではないか。
競馬の場合も同様で、ルメール・デムーロ騎手の騎乗から学べることが、日本人騎手にもファンにもたくさんあるのではないかと思います。
彼らを西洋競馬のトップジョッキーとしてリスペクトし、その巧みな技を見て学び、感嘆し、あわよくば馬券で勝って美味しい想いをする。
それがひいては競馬の発展につながるのではないかと思います。
根岸ステークスは、1世紀半続く日本の競馬史に想いを馳せる一戦でもあります。